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為替ヘッジと円建て・外貨建て ― 3人の架空投資家で比べる

外国の株式や債券に投資すると、資産そのものの値動きに加えて、為替の動きが結果を左右します。この記事では、同じ外国の資産を三つの違うやり方で持った架空の投資家3人を登場させ、1年後に為替が円高・横ばい・円安の三通りに動いたとき、それぞれの手元に何が残ったかを比べます。用語の定義から入るのではなく、3人の結果の違いを眺めながら、為替ヘッジとは何を差し出して何を得る仕組みなのか、「円建て」という言葉が何を意味し、何を意味しないのかを考えていきます。

同じ資産でも、持ち方で結果が変わる

海外の資産に投資するという話になると、為替リスクという言葉がほぼ必ずついてきます。けれども、その言葉が具体的に何を指し、誰がどの程度それを負っているのかは、意外に曖昧なまま語られがちです。外国の株式に投資している人の中にも、自分の成果のうちどれだけが株価によるもので、どれだけが為替によるものなのかを、はっきり分けて把握している人は多くないかもしれません。

そこでこの記事では、抽象的な説明の代わりに、条件をそろえた比較実験を一つ用意します。同じ日に、同じ金額で、同じ外国の資産に投資した3人がいて、違うのは持ち方だけ。1年後に為替がどう動いたかによって、3人の明暗がどう分かれるのかを順に見ていきます。結果を先に言ってしまえば、どの持ち方にも、ある場面では有利に、別の場面では不利に働く理由があり、常に勝つ持ち方は見当たりません。

なお、以下に登場する人物、資産、為替や金利の水準はすべて説明のための架空の設定です。実在の商品や現在の市場の水準とは関係がなく、計算を分かりやすくするために、手数料や税金、信託報酬などのコストは考えないことにします。本記事は仕組みの理解を目的とした学習用の解説であり、特定の商品や持ち方を勧めるものではありません。

3人の設定 ― 違うのは「持ち方」だけ

ある年の初め、為替相場は1ドル=150円だったとします。Aさん、Bさん、Cさんの3人は、それぞれ150万円を用意し、ドルで値段がつく同じ外国の資産に投資しました。150万円は1万ドルにあたります。この資産は、1年後にドル建てでちょうど5%値上がりし、1万500ドルになったとしましょう。資産そのものの成績は、3人ともまったく同じです。

Aさんは、円をドルに替えて、その資産をドルのまま直接保有しました。いわゆる外貨建ての資産を、為替ヘッジをかけずに持っている状態です。成果を円で確かめるときには、その時点の為替相場でドルを円に換算することになります。

Bさんは、為替ヘッジのついた方法で同じ資産を保有しました。為替ヘッジとは、将来ドルを円に替えるときの相場を、あらかじめ決めておく取引を組み合わせることで、為替の変動による影響を小さくする仕組みです。ここでは計算を単純にするため、ヘッジは値上がり分も含めて完全にかかっており、その費用であるヘッジコストは年4%だと仮定します。この4%という数字がどこから来るのかは、あとの節で見ていきます。

Cさんは、円で申し込み、円で基準価額が表示される投資信託を通じて、同じ資産に投資しました。日々の値段は円で表示され、解約したときも円で受け取ります。ただし、この投資信託は為替ヘッジを行わないタイプだったとします。Cさん自身は、円で買って円で受け取るのだから為替は関係ないと考えていました。この思い込みが正しいかどうかも、結果を見れば分かります。

1年後、為替は三通りに動いた

1年後の為替相場について、三つの場面を考えます。円高が進んで1ドル=130円になった場合、150円のまま変わらなかった場合、円安が進んで1ドル=165円になった場合です。資産はどの場面でもドル建てで5%値上がりしているので、違いを生むのは為替だけということになります。3人の手元に残った金額を、円で計算したのが次の表です。

1年後の為替Aさん(外貨建て・ヘッジなし)Bさん(為替ヘッジあり)Cさん(円建て表示・ヘッジなし)
1ドル=130円(円高)1,365,000円(−9.0%)1,515,000円(+1.0%)1,365,000円(−9.0%)
1ドル=150円(横ばい)1,575,000円(+5.0%)1,515,000円(+1.0%)1,575,000円(+5.0%)
1ドル=165円(円安)1,732,500円(+15.5%)1,515,000円(+1.0%)1,732,500円(+15.5%)
1年後に3人が円で受け取る金額と、投資額150万円に対する増減率。資産はドル建てで+5%(1万ドル→1万500ドル)、Bさんのヘッジコストは年4%、手数料・税金は考慮しない架空の計算です。

Aさんの結果は、為替によって大きく振れました。1万500ドルを130円で円に戻すと136万5,000円で、資産は5%値上がりしたのに、円で見ると9.0%の損失です。反対に165円で戻せば173万2,500円となり、15.5%の利益になります。資産の成績が同じでも、円で見た成果の幅は、マイナス9.0%からプラス15.5%まで、24.5%ポイントにも広がっています。

Bさんの結果は、三つの場面で同じ151万5,000円でした。資産の値上がり5%からヘッジコスト4%を差し引いた、およそ1%の増加です。円高の場面ではAさんより大幅に良く、横ばいや円安の場面ではAさんより悪い。為替がどちらに動いても、結果がほとんど変わらないのがBさんの持ち方の特徴です。

そしてCさんの結果は、Aさんとまったく同じでした。円で買い、円で表示され、円で受け取っていたにもかかわらず、円高の場面では9.0%減り、円安の場面では15.5%増えています。この一致は偶然ではありません。その理由は、Cさんの節で詳しく見ることにして、まずはAさんの数字を分解してみます。

円で見たリターンを、二つに分けて考える

Aさんの成果は、二つの要素の組み合わせで決まっています。一つはドル建てで見た資産の値動き、もう一つはドルと円の交換比率の変化です。円高の場面では、資産は+5%、為替は150円から130円への変化なので約−13.3%。円安の場面では、資産は+5%、為替は150円から165円への変化なので+10.0%です。この二つを並べて図にすると、次のようになります。

円で見たリターンを資産の値動きと為替の影響に分けた棒グラフ1年後の為替が130円、150円、165円の三つの場面について、それぞれドル建ての資産の値動き、為替の影響、円で見た合計の三本の棒を並べている。資産の値動きはどの場面でもプラス5.0パーセント。為替の影響は130円でマイナス13.3パーセント、150円でゼロ、165円でプラス10.0パーセント。円で見た合計はマイナス9.0パーセント、プラス5.0パーセント、プラス15.5パーセント。資産の値動き(ドル建て)為替の影響円で見た合計0%+5.0%−13.3%−9.0%+5.0%±0%+5.0%+5.0%+10.0%+15.5%円高(1ドル=130円)横ばい(150円)円安(165円)
Aさん(およびCさん)の1年間の成果を、ドル建ての資産の値動きと為替の影響に分けた図です。円で見た合計は二つの掛け算で決まるため、単純な足し算とはわずかにずれます。

図を見ると、円で見た成果の大部分を為替が動かしていることが分かります。資産の値動きは三つの場面で同じ+5%なのに、合計の棒は大きく上下しています。為替の変動の幅が資産の値動きよりも大きい場面では、為替が成果の主役になるということです。外国の資産を為替ヘッジなしで持つことは、その資産に投資すると同時に、ドルという通貨にも投資していることだと言い換えられます。

もう一つ、細かいけれど大切な点があります。円高の場面で、+5%と−13.3%を足すと−8.3%ですが、実際の合計は−9.0%でした。円安の場面でも、+5%と+10%の足し算は15%なのに、実際は15.5%です。円で見た金額は「ドル建ての資産額×為替相場」という掛け算で決まるため、値上がりした分にも為替の変化がかかり、そのぶんだけ足し算からずれるのです。円で見た増減率は、(1+資産の増減率)×(1+為替の変化率)−1で計算できます。円高の場面なら1.05×(130÷150)−1で−9.0%、円安の場面なら1.05×1.1−1で+15.5%となり、表の数字と一致します。

この分け方を身につけておくと、ニュースの見え方も変わります。たとえば「米国株が上がったのに、円で見た資産は減った」という出来事は、資産の値動きよりも円高の影響が大きかった、と整理できます。逆に、資産が横ばいでも円安が進めば、円で見た金額は増えます。自分の成果を二つに分けて記録しておくことは、結果を運と実力に分けて考えるうえでも役に立つと考えられます。

Bさんの安定は、何と引き換えだったのか

Bさんは為替の影響をほぼ受けずに済みましたが、その安定は無料ではありませんでした。三つの場面すべてで、資産の値上がり5%のうち4%をヘッジコストとして差し出しています。では、このコストはどこから生まれるのでしょうか。

為替ヘッジの中心にあるのは、1年後にドルを円に替える相場を今の時点で決めておく取引です。この先の相場は、今の相場そのままではなく、二つの通貨の金利の差を反映して決まるとされています。仮に日本の短期金利が年0.5%、米国の短期金利が年4.5%だとすると、ドルで運用すれば円より年4%多く利息を得られることになります。もし先の相場が今と同じなら、円をドルに替えて運用し、1年後に同じ相場で円に戻すだけで、為替の危険を負わずに金利差を手にできてしまいます。そうした取引で誰もが儲けられる状態は長続きしないため、先の相場は金利差の分だけドル安・円高の水準で決まりやすく、その差がヘッジをかける側のコストとして現れるのです。

金利差がヘッジコストになり、ヘッジありの成果が決まる仕組みの図左側に、仮定した短期金利として日本0.5パーセントと米国4.5パーセントの棒を並べ、その差の約4パーセントが矢印で右側の箱につながっている。右側には上から、ドル建て資産の値動きプラス5パーセント、為替ヘッジのコストマイナス4パーセント、円で見た成果約プラス1パーセントの三つの箱が並び、為替が130円でも165円でもほぼ変わらないと添えられている。短期金利(仮定)0.5%4.5%日本米国金利差約4%Bさんの1年後(ヘッジあり)ドル建て資産の値動き +5%為替ヘッジのコスト −4%(≈金利差)円で見た成果 約+1%為替が130円でも165円でも、ほぼ変わらない
ヘッジコストがおおむね2つの通貨の短期金利の差に近い水準になることを示した概念図です。金利の水準は説明のための仮定で、実際のヘッジコストは市場の状況によって変わります。

この仕組みから、ヘッジコストは固定されたものではなく、金利差とともに変わることが分かります。日米の金利がともに低く、差が小さい時期にはヘッジコストも小さくなり、金利差が大きく開いた時期には年数%に達することもあるとされています。つまり、同じ為替ヘッジでも、どの時期にかけるかによって費用が大きく違うのです。金利の高い通貨の資産をヘッジつきで持つと、その通貨の高い金利の恩恵は、ヘッジコストという形でおおむね打ち消されることになります。

では、AさんとBさんのどちらが良かったのかを分ける境目はどこにあったのでしょうか。Bさんの結果は151万5,000円で一定です。Aさんの1万500ドルがこれと同じ円になる為替相場は、151万5,000円÷1万500ドルで、約144.3円です。1年後の為替が約144.3円より円安ならAさん、円高ならBさんの結果が上回る計算になります。150円から見れば、円高が4%弱進んだところが分かれ目ということです。ヘッジをかけるかどうかの判断は、裏返せば、この分かれ目より円高になると見るかどうかの判断を、知らず知らずのうちに含んでいるとも言えます。

ただし、Bさんの持ち方を「為替を当てにいかない選択」と捉えることもできます。為替の先行きを予想するのは専門家にとっても難しいとされており、予想を外したときの振れ幅を小さくしておきたい人にとっては、ヘッジコストは安心のための保険料のようなものだと考えられます。保険料が妥当かどうかは、その時々の金利差と、自分がどれだけ振れ幅を受け入れられるかによって変わります。

Cさんの思い込み ― 「円建て」は為替と無縁ではない

Cさんは、円で買って円で受け取るのだから為替は関係ないと考えていました。ところが結果は、ドルのまま資産を持ったAさんと同じでした。なぜでしょうか。

Cさんが買った投資信託は、集めた円をドルに替えて、外国の資産に投資しています。基準価額は毎日、その外国の資産の値段をその日の為替相場で円に換算して計算されます。つまり、投資信託の中でAさんと同じことが行われていて、それが円という単位で表示されているだけなのです。円高になれば外国の資産の円換算額が減り、基準価額も下がります。表示や受け渡しの通貨が円であることと、中身の資産が為替の影響を受けるかどうかは、別の問題だということです。

ここで、円建てと外貨建てという言葉を整理しておきます。一般に、円建て・外貨建てというときには、値段の表示や支払い、受け取りがどの通貨で行われるかを指していることが多いとされます。一方、為替の影響を受けるかどうかは、その裏で何に投資しているか、そして為替ヘッジをかけているかで決まります。外国の資産に投資する円建ての投資信託には、為替ヘッジありのものとなしのものがあり、名前や説明書きに「為替ヘッジあり」「為替ヘッジなし」といった表示がされているのが一般的です。円建てという言葉だけを見て安心するのではなく、この表示を確かめることが大切だと考えられます。

反対の例もあります。外貨預金のように、ドルで預けてドルで利息を受け取るものは、中身に値動きする資産がない代わりに、円に戻すときの為替の影響をそのまま受けます。Aさんの持ち方から資産の値動きを取り除いたもの、と考えると分かりやすいでしょう。何建てかという表示の通貨と、成果を左右する中身の通貨を分けて考える習慣が、こうした商品を比べるときの出発点になります。

3人から学べること

3人の比較から見えてくるのは、どの持ち方にも、それが有利になる場面と不利になる場面があるということです。Aさんの持ち方は円安の恩恵を丸ごと受ける代わりに、円高の痛手も丸ごと受けます。Bさんの持ち方は為替の振れを小さくする代わりに、金利差に応じたコストを毎年払い続けます。Cさんの持ち方は中身がAさんと同じで、違うのは手続きの便利さだけです。どれが正しいかは、為替の先行きが分からない以上、事前には決められません。

では何を手がかりに考えればよいのでしょうか。一つの見方は、そのお金を将来どの通貨で使うのかを先に決めておくことです。生活費や将来の支出の大半が円であれば、最終的な成果は円で測るしかありません。その場合、為替ヘッジなしの外国資産は、円で見た価値が大きく揺れる資産として扱うことになります。一方で、円の価値そのものが下がる場面への備えとして、あえて外貨の資産を持っておくという考え方もあります。円安で物価が上がる場面では、為替ヘッジなしの外国資産の円換算額が増え、その影響をある程度和らげる働きをすることがあるためです。

また、ヘッジは「すべてかける」か「まったくかけない」かの二択である必要はありません。外国の資産の一部だけをヘッジつきで持ち、残りはヘッジなしで持つという中間の選び方もあります。そうすれば、円高と円安のどちらに転んでも、極端な結果を避けやすくなります。どの割合が適切かに決まった答えはなく、自分がどれだけの振れ幅を受け入れられるかによって変わると考えられます。

最後に、為替の影響は時間を区切る長さによって見え方が変わることにも触れておきます。1年という短い期間では、為替の変動が資産の値動きを上回ることが珍しくありません。より長い期間では、資産そのものの成長が積み重なる一方で、為替がどちらに動くかは期間ごとに異なり、一般的な傾向を言い切るのは難しいとされています。自分の投資期間の中で、為替がどの程度の比重を持つのかを意識しておくことが、結果に一喜一憂しないための準備になるでしょう。

タルムードの視点 ― 一つの物差しで測らない

同じ資産、同じ年、同じ成績なのに、3人の手元に残った金額は大きく違いました。どの物差しで測るかによって、同じ出来事が利益にも損失にも見えるということです。「賢者とは、すべての人から学ぶ者である」という言葉は、自分とは異なる立場からの見方に学ぶことの大切さを伝えています。ドルで見れば5%の利益、円で見れば9%の損失という二つの見方を並べられることは、まさに複数の視点から一つの出来事を眺める練習だと言えるかもしれません。

また、「人は常にその財を三分すべし」という言葉が示すように、性格の異なる置き場所に分けておくという知恵は古くから伝えられています。通貨もまた、分けて置く対象の一つです。円だけで持つか、外貨にも分けるか、外貨の中でもヘッジをかけるかどうか。答えを一つに決めつけず、それぞれの置き場所がどの場面で働き、どの場面で痛むのかを理解したうえで組み合わせることが、この古い言葉を現代の為替に当てはめる一つの読み方だと考えられます。

参考情報

為替相場や金利の動向、金融政策については、日本銀行の公表資料が一次情報にあたります。投資信託の為替ヘッジの有無や費用の考え方については、投資信託協会が投資信託の仕組みに関する解説を公開しています。本記事の表と図の数値は、為替ヘッジが値上がり分も含めて完全にかかり、ヘッジコストを年4%で一定とし、手数料や税金を考えないという単純化した条件による架空の計算です。実際のヘッジコストは期間中の金利差の変化などによって変わり、ヘッジも完全にはかからないことがあります。