市場を読むための学び・指標を理解する

債券の基礎 ― 金利が上がると債券価格が下がる理由

ニュースで「長期金利が上昇」と聞いたとき、それが債券を持つ人にとって値下がりを意味することは、意外に知られていません。この記事では、年1%の利息を10年間払うという架空の債券を一本だけ用意し、その債券が生まれてから満期を迎えるまでを順に追いかけます。定義を並べる代わりに、一つの債券に起きる出来事を眺めることで、金利と価格がなぜ逆に動くのかを自分の言葉で説明できるようになることが目標です。

債券は「約束」を売り買いするもの

債券という言葉には、株式よりも地味で難しそうな印象があるかもしれません。けれども、その中身は驚くほど単純です。お金を借りたい国や企業が、一定の期間、決まった利息を払い、期限が来たら元本を返すという約束をする。その約束を紙にしたものが債券です。買う側から見れば、債券を買うことは、その発行体にお金を貸すことにあたります。

株式との大きな違いは、受け取れるものがあらかじめ決まっている点です。株式の配当や値上がりは会社の業績によって変わりますが、債券の利息と元本は、発行体が約束を守る限り、発行した時点で金額も日付も決まっています。だからこそ、債券は値動きが穏やかな資産として語られることが多いのです。

ところが、約束の中身が決まっているのに、債券の値段は毎日のように変わります。その理由を理解するには、定義を覚えるよりも、一本の債券を最初から最後まで追いかけてみるのが近道です。以下では、説明のために用意した架空の債券を使います。実在の銘柄や商品とは関係がなく、計算を分かりやすくするために条件を単純化しています。なお本記事は学習を目的とした解説であり、特定の債券や商品の売買を勧めるものではありません。

第一章 誕生 ― 年1%を10年間払うという約束

ある年の春、一本の債券が発行されたとします。条件は次のとおりです。額面は100円、利息は年1回、額面に対して1%、つまり毎年1円。期間は10年で、10年後の満期日には額面の100円が返ってきます。実際の債券は額面が1万円や100万円といった単位で売られますが、値段を比べやすくするため、市場では額面100円あたりの価格で表す習慣があり、ここでもそれに合わせています。

このとき、世の中で同じような条件の債券が年1%程度の利回りで取引されていたとしましょう。そうであれば、この債券は100円で発行され、100円で買われるのが自然です。100円を払って毎年1円を受け取るのですから、買った人にとっての利回りはちょうど年1%になります。最初の買い手をAさんと呼ぶことにします。Aさんは、10年後まで毎年1円ずつ、合計10円の利息と、最後に100円の元本を受け取る約束を手に入れました。

ここで押さえておきたい言葉は三つだけです。額面は満期に返ってくる金額、利率はその額面に対して毎年払われる利息の割合、残存期間は満期までに残された時間です。この三つは、発行した瞬間に決まり、その後変わることはありません。変わっていくのは、この約束を市場でいくらで売り買いするか、という値段のほうです。

第二章 一年後 ― 世の中の金利が上がった

一年が経ち、Aさんは最初の利息1円を受け取りました。ところがこの一年のあいだに、物価の上昇や金融政策の変更などをきっかけに、世の中の金利水準が上がったとします。いま新しく発行される同じような債券は、年2%の利息を払うようになりました。

ここでAさんが、事情があって手元の債券を売りたくなったと考えてみます。買い手の立場に立つと、話ははっきりします。新しく発行される債券を100円で買えば毎年2円もらえるのに、毎年1円しか払わないAさんの債券を同じ100円で買う理由はありません。Aさんの債券に買い手がつくのは、値段が下がり、その分を取り戻せるようになったときだけです。

では、いくらまで下がれば釣り合うのでしょうか。残り9年間に受け取る毎年1円と、最後の100円を、年2%の利回りで割り引いて足し合わせると、およそ91.84円になります。つまり91.84円で買えば、この古い債券からも年2%の利回りが得られる計算です。Aさんの債券は、約束の中身は何も変わっていないのに、一年で100円から91.84円へと値下がりしました。金利が上がると債券の価格が下がる、という関係の正体は、この釣り合いの調整です。

市場の利回りと既発債の価格が逆に動く関係を示すシーソーの図中央の支点を境に、左端に市場の利回り、右端にすでに発行された債券の価格を載せたシーソー。市場の利回りが上がると左端が持ち上がり、右端の債券価格が下がる様子を描いている。右上には、新しい債券が年2%を払うなら年1%の古い債券は安くならないと買い手がつかない、という理由が添えられている。市場の利回り既発債の価格上がる ↑下がる ↓新しい債券が年2%を払うなら、年1%の古い債券は値段を下げないと買い手がつかない利回りが下がる場面では、シーソーは逆向きに傾きます(既発債の価格は上がる)
市場の利回りと、すでに発行された債券の価格の関係をシーソーにたとえた概念図です。約束された利息と元本は変わらないため、利回りの変化はすべて価格の側で調整されます。

逆の場合も同じ理屈です。もし世の中の金利が下がり、新しい債券が年0.5%しか払わなくなったなら、毎年1円を払うAさんの債券は相対的に魅力的になり、100円より高い値段で買われるようになります。シーソーはどちらにも傾くということです。債券の価格は、発行体の信用が変わらない限り、世の中の金利との比較だけで上下していると考えることができます。

第三章 長い約束ほど、大きく揺れる

同じ金利の変化でも、値下がりの大きさは債券によって違います。違いを生む最大の要因は残存期間です。Aさんの債券と同じく年1%の利息を払い、残存期間だけが2年、9年、19年と異なる三本の債券を並べ、市場の利回りがいくらのときに価格がいくらになるかを計算したのが次の表です。どの債券も、利回りが1%なら価格はちょうど100円になります。

市場の利回り残存2年残存9年残存19年
年0.5%100.99円(+1.0%)104.39円(+4.4%)109.04円(+9.0%)
年1.0%100.00円(±0%)100.00円(±0%)100.00円(±0%)
年1.5%99.02円(−1.0%)95.82円(−4.2%)91.79円(−8.2%)
年2.0%98.06円(−1.9%)91.84円(−8.2%)84.32円(−15.7%)
年3.0%96.17円(−3.8%)84.43円(−15.6%)71.35円(−28.6%)
年1%の利息を払う債券(額面100円)の価格。利払いは年1回、利払い直後の時点で、残りの利息と元本を市場の利回りで割り引いて計算しています。かっこ内は100円からの変化率です。

利回りが1%から2%へ上がったとき、残存2年の債券は2%ほどしか下がらないのに、残存9年では8%あまり、残存19年では16%近く下がります。理由は、低い利息を我慢しなければならない期間の長さです。残り2年なら、年1円の差を2回分埋めればよいだけですが、残り19年なら19回分を埋めなければなりません。約束が長いほど、世の中の変化から受ける影響も長く続くため、その分が今日の値段にまとめて反映されるわけです。

表からはもう一つ、見落とされやすい性質が読み取れます。残存9年の列で、利回りが0.5%ポイント下がったときの値上がりは4.39円、0.5%ポイント上がったときの値下がりは4.18円で、同じ幅の変化でも上がる側が少し大きくなっています。金利と価格の関係が直線ではなく、ゆるやかに曲がっているためです。専門的には、残存期間などから計算する値動きの大きさの目安をデュレーション、この曲がり具合をコンベクシティと呼びますが、まずは「長い債券ほど揺れが大きい」ことを覚えておけば十分でしょう。

この性質は、債券が穏やかな資産だという印象に一つ但し書きを加えます。残存期間の長い債券は、金利が大きく動く局面では、株式に近いほどの値動きを見せることがあります。債券だから安全、と一括りにするのではなく、どれくらい先まで続く約束なのかを確かめることが、値動きの大きさを知る第一歩になります。

第四章 売った人、持ち続けた人、あとから買った人

話をAさんに戻します。金利が上がった一年後の時点で、Aさんには二つの道がありました。一つは、91.84円で売ることです。すでに受け取った利息1円と合わせても、100円で買ったものが92.84円になって戻ってくるので、およそ7円の損失が確定します。もう一つは、満期まで持ち続けることです。この場合、発行体が約束を守る限り、Aさんは合計10円の利息と100円の元本を受け取り、最初に約束された年1%の利回りをそのまま得ることになります。

では、持ち続ければ損はしないのでしょうか。帳簿の上ではそうですが、別の見方もあります。世の中では年2%の債券が買えるのに、Aさんのお金は年1%の約束に9年間縛られ続けます。手放していれば得られたはずの差は、目には見えないけれど確かに存在する機会の損失です。途中で売れば損失は目に見える形で確定し、持ち続ければ見えない形で少しずつ現れる。金利が上がったときに既発の債券を持つ人が直面するのは、損を避けるか受け入れるかではなく、損の現れ方を選ぶ問題だと言えます。

一方、Aさんから91.84円でこの債券を買った人を、Cさんとしましょう。Cさんは残り9年で利息を9円、満期に元本を100円受け取るので、合計109円を手にします。91.84円の支払いに対して、年2%の利回りになるように値段が決まっていたのでした。同じ一本の債券なのに、Aさんにとっては年1%、Cさんにとっては年2%の投資になっています。債券の成果を決めるのは、どの債券を持つかだけでなく、いつ、いくらで手に入れたかでもある、ということがこの例から見えてきます。

なお、ここまでの話はすべて、発行体が約束どおりに利息と元本を払うことを前提にしています。発行体の財務状況が悪化すれば、約束が守られない可能性を反映して、金利とは関係なく価格が下がります。この信用の問題は、金利の問題とは別の種類の危険として分けて考えておく必要があります。国が発行する債券と企業が発行する債券とで利回りに差がつくのは、主にこの信用の違いが値段に織り込まれているためだとされています。

第五章 満期 ― 値段は額面へ帰っていく

世の中の利回りが年2%のまま動かなかったとして、Aさんの債券の値段がその後どう変わるかを追ってみます。残存9年で91.84円だった価格は、残存7年で93.53円、残存5年で95.29円、残存3年で97.12円、残存1年で99.02円と、少しずつ上がっていき、満期の日には額面の100円に到達します。金利が変わらないのに値段が上がるのは、低い利息を我慢しなければならない残りの回数が、一年ごとに減っていくからです。

この性質は、満期が近づくと価格が額面に引き寄せられる、と表現されることがあります。途中でどれほど値段が揺れても、発行体が約束を守る限り、最後には額面の100円に帰ってくる。株式には満期がないため、この性質は債券に特有のものです。途中の値動きに一喜一憂しにくい理由の一つがここにあります。

ただし、それは満期まで持ち続けられる場合に限った話です。途中でお金が必要になって売らざるを得なくなれば、その時点の値段で受け取るしかありません。満期まで待てるかどうかは、債券そのものの性質ではなく、持つ人の事情で決まります。いつ使うお金なのかを先に決めておくことが、債券と付き合ううえでも出発点になると考えられます。

ニュースの「長期金利」とのつながり

ここまでの物語を踏まえると、ニュースで聞く言葉の意味が少し変わって見えてきます。日本で「長期金利」と言うとき、多くの場合は新しく発行された10年物の国債が市場で取引されている利回りを指します。長期金利が上昇したというニュースは、裏返せば、すでに出回っている国債の価格が下がったということです。利回りと価格は同じことを別の側から表しているので、どちらの言い方をしても同じ出来事を指しています。

また、残存期間ごとの利回りを並べて線で結んだものが利回り曲線、いわゆるイールドカーブです。表で見たように、期間が違えば金利の変化から受ける影響も違うため、市場参加者は期間ごとの利回りの差にも注目します。為替を考えるときに日米の金利差がよく話題になるのも、債券の利回りが国ごとのお金の集まりやすさに関わるからだとされています。インフレが進むと、固定された利息の実質的な価値が目減りするため、債券の利回りには将来の物価についての見通しも織り込まれていきます。

つまり債券の値段は、世の中の金利、発行体の信用、将来の物価という三つの見通しがぶつかり合う場所だと言えます。株式の話題に比べて目立たないものの、債券市場で決まる利回りは、住宅ローンの金利や企業の資金調達、ひいては株式の評価にも影響すると考えられています。市場全体を眺めるとき、債券の利回りを一つ加えておくと、景色の奥行きが増すはずです。

タルムードの視点 ― 貸すことと、約束の重さ

債券を買うことは、発行体にお金を貸すことでした。貸し借りと保証をめぐる戒めは、ユダヤの伝統のなかでも繰り返し語られてきたテーマです。「保証人になることを軽々しくするな」という趣旨の言葉は、他人の約束に自分の財産を預けることの重さを指摘しています。債券の買い手もまた、発行体が約束を守るかどうかという、自分では制御できない要因に財産を預けています。利回りの高さだけを見て、その約束を誰がどれだけ確かに守れるのかを確かめないのは、この戒めが警告している姿に近いのかもしれません。

一方で、「人は常にその財を三分すべし」という言葉が示すように、性格の異なる置き場所に分けておくという考え方も古くから伝えられています。受け取るものがあらかじめ決まっている債券は、業績によって配当が変わる株式とは値動きの理由が異なるため、組み合わせの一部として語られることが多い資産です。ただし第三章で見たとおり、長い債券は金利の変化に大きく揺れます。分けて持つという知恵を生かすには、何に分けたのかを、その中身の性格まで含めて理解しておく必要があるということでしょう。

参考情報

国債の仕組みや発行の状況については、国債を発行する財務省が解説と統計を公開しています。金利の動向や金融政策が債券市場に与える影響については、日本銀行の公表資料が一次情報にあたります。本記事の表と数値例は、利払いを年1回とし、利払い直後の時点で残りの利息と元本を一定の利回りで割り引くという単純化した条件で計算したもので、実際の債券の価格は利払いの頻度や経過利息、税金、手数料などによって異なります。