市場を読むための学び・投資の考え方
資産配分の考え方 ― 「何を買うか」より「どう分けるか」
投資の話題は「何を買えばよいか」に集まりがちですが、長い目で見た結果を左右しやすいのは、手元のお金をどんな性格の資産にどう分けておくか、つまり資産配分だとよく言われます。この記事では、あえて表も図も使わず、配分を決めるときに自分に投げかけたい五つの問いを、一つずつ文章で考えていきます。答えを示す記事ではなく、答えを出すための問いを手渡す記事です。
「何を買うか」の手前にある問い
投資を始めようとすると、多くの人がまず「どの商品がよいのか」を調べ始めます。ランキングや比較記事、過去の成績を並べた一覧は数多くあり、それらを眺めていると、どこかに唯一の正解があるような気持ちになります。けれども、同じ商品を買った二人の結果が、まったく違う形で終わることは珍しくありません。一人は値下がりの局面でも落ち着いて持ち続け、もう一人は不安に耐えきれず底値の近くで手放してしまう。違いを生んだのは商品ではなく、その人の手元のお金全体の中で、その商品がどんな位置を占めていたかであることが多いとされます。
資産配分とは、手元のお金を、値動きの性格が違ういくつかの器に分けて置くことを指します。預金のように値動きのほとんどない器、債券のように比較的おだやかに動く器、株式のように大きく上下しながら長い期間で成長を目指す器などを、どの割合で組み合わせるかという問題です。何を買うかは器の中身の話で、どう分けるかは器の大きさの話だと言い換えることもできます。
この記事では、具体的な比率の目安や計算例をあえて載せていません。比率の表があると、読む人はどうしても自分に近い行を探して、それをそのまま採用したくなるからです。しかし資産配分は、年齢や収入といった表に載せやすい条件だけでは決まりません。ここでは代わりに、配分を考えるときに自分自身に投げかけたい問いを五つ用意しました。どの問いにも正解はありませんが、問いに答えていくうちに、自分にとって無理のない分け方の輪郭が見えてくるはずです。
資産配分はなぜ「考え方」の問題なのか
資産配分が重視される理由の一つは、個々の商品選びよりも、全体の値動きの大きさに与える影響が大きいと考えられているためです。株式の割合が高ければ、全体として上がるときも下がるときも振れ幅が大きくなり、預金や債券の割合が高ければ振れ幅は小さくなる傾向があります。どの株式を選ぶかで結果に差は出ますが、そもそも株式に全体のどれだけを置いているかのほうが、資産全体の揺れ方を大きく決めるという見方が一般的です。
一方で、資産配分には計算だけでは決まらない部分があります。過去の値動きのデータを使えば、ある組み合わせがどの程度揺れやすいかを推定することはできます。けれども、その揺れに実際に耐えられるかどうかは、数字ではなくその人の生活や性格、置かれた状況で決まります。理論上は最適に見える配分でも、途中で続けられなくなれば、その配分は存在しなかったのと同じ結果に終わりかねません。
だからこそ、資産配分は計算問題というより、自分を知るための問いの積み重ねとして考えるほうが実態に近いと言えます。以下の五つの問いは、その積み重ねを始めるための手がかりです。順番に意味はありますが、どこから考え始めても構いません。
第一の問い ― このお金は、いつ、何のために使うのか
最初に考えたいのは、お金の行き先と時期です。来年の引っ越し費用、数年後の子どもの進学費用、二十年以上先の老後の生活費。同じ百万円でも、使う時期が違えば、置くべき器も違ってくるとされます。近いうちに使うお金を大きく揺れる器に入れておくと、使いたいときにちょうど値下がりしていて、予定どおりの金額を用意できないということが起こりえます。
反対に、使う時期がずっと先のお金であれば、途中の値下がりから回復するまで待てる時間があります。株式のように長い期間で見て成長が期待されてきた器に多めに置く考え方は、この「待てる時間」があることを前提にしています。言い換えると、時間はそれ自体が一つの資産であり、待てる時間が長いほど、揺れを引き受ける余地が生まれるということです。
この問いに答えるときは、お金を一つのかたまりとして考えず、行き先ごとに分けて書き出してみると整理しやすくなります。生活防衛のための数か月分、数年以内に使う予定のもの、当面使う予定のないもの。それぞれに別の配分を考えてよいのです。全体を一つの比率で管理するのは、行き先を書き出したあとでも遅くありません。
自分に問うこと:いま手元にあるお金を行き先ごとに分けたとき、五年以内に必要になる部分はどれくらいあるでしょうか。その部分を、大きく揺れる器に入れてはいないでしょうか。
第二の問い ― どこまで下がったら、夜眠れなくなるか
二つ目の問いは、値下がりへの耐性です。どんな資産でも、持っている間には値下がりの時期があります。株式であれば、過去には短い期間に大きく値を下げた局面が何度もあったことが知られています。問題は値下がりが起きるかどうかではなく、起きたときに自分がどう振る舞うかです。
ここで役立つのは、割合ではなく金額で想像してみることです。「資産が三割下がる」と聞いてもあまり実感がわかない人でも、「三百万円が二百十万円になる」と言い換えると受け止め方が変わることがあります。さらに、その金額が自分の年収の何か月分にあたるのか、どんな買い物が一つできなくなる金額なのかまで具体的にすると、自分の本当の許容範囲に近づけるとされます。
注意したいのは、上昇相場の最中には、この問いへの答えが楽観的になりやすいことです。価格が上がり続けている時期には、多少の値下がりなら平気だと感じますが、実際に値下がりが続く局面では、想像していたよりずっと強い不安に襲われることが少なくありません。過去に大きな下落を経験したときの自分の行動を思い出せるなら、それは何よりの手がかりになります。経験がない場合は、想像した許容範囲よりも少し控えめに見積もっておくのが無難だと考えられています。
自分に問うこと:資産全体が一年でどれだけ減ったら、売ってしまいたくなるでしょうか。その金額を、割合ではなく円で書いてみるとどうなるでしょうか。
第三の問い ― すでに持っているものは何か
三つ目の問いは、投資に回すお金の外側にある資産に目を向けるものです。資産配分というと、証券口座の中だけの話と思われがちですが、実際の暮らしはもっと多くの資産に支えられています。たとえば、毎月の給与を生み出す働く力、将来受け取る公的年金、住んでいる家、勤務先の退職金や企業年金などです。
これらの資産にも性格があります。収入が景気に左右されにくい仕事に就いている人は、毎月の給与を、債券に近い安定した資産を一つ持っているのと似た状態だと考えることができます。そうした人は、投資口座の中で株式の割合をやや高めにしても、暮らし全体の揺れはそれほど大きくならないかもしれません。反対に、収入が景気や業績によって大きく変わる仕事の場合、給与そのものが株式に近い揺れ方をしているとも言えます。その場合、投資口座の中まで揺れの大きい資産で固めると、景気が悪いときに収入と資産が同時に減るという重なりが生じやすくなります。
勤務先の株式を多く持っている場合も、同じ重なりに気をつけたいところです。会社の業績が悪化したとき、給与と保有株の両方が一度に打撃を受ける可能性があるからです。持ち家についても、住宅ローンの返済が続いている間は、毎月の固定的な支出という形で暮らしの柔軟性に影響します。投資口座の配分だけを眺めていると、こうした重なりは見えにくくなります。
自分に問うこと:自分の収入は、景気がよいときと悪いときで、どれくらい変わるでしょうか。投資口座の外にある資産まで含めて眺めたとき、同じ方向に揺れるものが重なっていないでしょうか。
第四の問い ― いくつに分ければ、続けられるか
四つ目の問いは、分ける単位の数です。分散が大切だと聞くと、できるだけ多くの種類に分けたほうがよいように思えます。しかし、器の数が増えるほど、それぞれの値動きを把握し、比率を保つ手間も増えていきます。十の器を管理しきれずに放置してしまうよりは、三つか四つの器を確実に管理するほうが、結果として配分を保ちやすいという考え方もあります。
また、器の数が多いことと、分散が効いていることは同じではありません。名前の違う投資信託を五本持っていても、中身がどれも同じような国内の大型株であれば、実質的には一つの器に入れているのとあまり変わらないことがあります。反対に、一本の商品の中で、国内外の株式や債券に幅広く分けて投資しているものもあります。大切なのは本数ではなく、中身の値動きの性格がどれだけ違っているかだとされます。
分け方を考えるときには、自分が説明できる範囲にとどめておくことも一つの目安になります。それぞれの器が何のためにあり、どんなときに値上がりし、どんなときに値下がりしやすいのかを、短い言葉で説明できるでしょうか。説明できない器は、値下がりしたときに持ち続ける理由も見つけにくくなります。
自分に問うこと:いま持っている、あるいは持とうとしている器を、一つずつ一行で説明できるでしょうか。説明が似通ってしまう器は、本当に別の器と言えるでしょうか。
第五の問い ― いつ、どんな条件で見直すか
五つ目の問いは、見直しのタイミングです。配分を決めても、時間がたつと値動きによって比率は自然にずれていきます。株式が大きく値上がりした年には、株式の割合が当初の想定より膨らみ、全体として以前より揺れやすい状態になっていることがあります。このずれを元に戻す作業は、リバランスと呼ばれます。
リバランスは、値上がりした器の一部を手放し、値下がりした器に移すことを意味する場合が多く、感情の面ではなかなか難しい作業です。上がっているものを売り、下がっているものを買い足すのは、多くの人の直感に反するからです。そのため、見直しは相場を見ながらその場で判断するのではなく、あらかじめ決めた条件で機械的に行うほうが続けやすいと言われます。たとえば「年に一度、誕生日の月に確認する」「当初の比率から一定以上ずれたら調整する」といった、自分で決めた約束です。
見直しには、比率のずれを戻すことのほかに、配分そのものを変えるという意味もあります。結婚や転職、子どもの誕生、退職が近づくことなど、暮らしの前提が変われば、第一から第三の問いへの答えも変わります。そのときは比率を戻すのではなく、問いに答え直して新しい配分を決めることになります。相場が大きく動いたことは、配分を変える理由にはなりにくい一方で、暮らしが変わったことは、配分を考え直す十分な理由になると考えられています。
なお、器の入れ替えには売買の手数料がかかったり、口座の種類によっては売却益に税金がかかったりすることがあります。新しく積み立てるお金の振り向け先を変えるだけで比率を近づけられる場合もあるため、見直しの方法も一つではありません。
自分に問うこと:配分を見直す日を、相場とは関係のない日付であらかじめ決めておけるでしょうか。どんな暮らしの変化が起きたら、配分そのものを考え直すことにするでしょうか。
配分を決めたあとに起きやすいこと
五つの問いに答えて配分を決めても、それで終わりではありません。むしろ難しいのは、決めた配分を保ち続けることです。よく知られているのは、周りの人の成績が気になって配分を崩してしまうという現象です。株式が大きく上がった年には、慎重な配分にしている自分が損をしているように感じ、株式の割合を急に増やしたくなります。その直後に相場が崩れれば、増やした部分が最も大きな打撃を受けることになりかねません。
逆の場面もあります。値下がりが続いた時期に、もともとの配分を守れずに株式を手放してしまうと、その後の回復局面に乗り遅れることがあります。どちらの場合も、配分を変えたきっかけは暮らしの変化ではなく、相場の動きと、それに伴う感情でした。配分を決めたときの理由を短い文章で書き残しておくと、こうした場面で自分の判断を確かめる手がかりになるとされます。
もう一つ起きやすいのは、配分を細かく調整しすぎることです。わずかなずれも許さずに頻繁に売買を繰り返すと、手数料や税金がかさむうえに、相場を見る時間が増えて気持ちが休まりません。配分はある程度の幅を持って管理するものだと考えておけば、日々の値動きに振り回されにくくなります。
正解のない問題との付き合い方
ここまで読んで、結局どの比率がよいのかが書かれていないことに、物足りなさを感じた方もいるかもしれません。けれども、誰にでも当てはまる正しい比率は存在しないというのが、この記事の出発点です。同じ年齢、同じ年収の二人でも、お金を使う予定も、値下がりへの耐性も、持っている資産も違えば、無理のない配分は違ってきます。
世の中には、年齢から株式の比率を決める簡単な目安のようなものも紹介されています。そうした目安は、考え始めるきっかけとしては役に立つかもしれません。ただ、それはあくまで多くの人の平均的な姿を想定したもので、自分の答えそのものではありません。目安から出発するとしても、五つの問いに照らして、自分の場合はどちらにずらすべきかを考えることが大切だと言えます。
また、配分は一度決めたら変えてはいけないものでもありません。最初は迷いながら決めた配分でも、数年持ち続けるうちに、実際の値下がりを経験し、自分の許容範囲が想像と違っていたことに気づくことがあります。その気づきを次の見直しに生かしていけば、配分は少しずつ自分に合ったものになっていきます。最初から完璧な答えを求めるより、小さく始めて問い直し続けるほうが、結果として長く続けられる配分にたどり着きやすいと考えられています。
この記事は投資の学習を目的としたもので、特定の配分や商品をすすめるものではありません。実際の資産配分は、ご自身の状況に照らして判断してください。必要に応じて、利害関係のない専門家に相談することも選択肢の一つです。
タルムードの視点 ― 答えより、問いを手放さない
タルムードの学びは、一つの問いに対して複数の賢者が異なる答えを述べ、その議論をそのまま書き残していく形をとっていることで知られています。結論が一つにまとまらないまま次の問いへ進むことも少なくありません。そこでは、正しい答えを覚えることよりも、問いを立て、問い直し続ける姿勢そのものが重んじられていると言われます。資産配分という正解のない問題に向き合うときにも、この姿勢は参考になります。比率の答えを誰かから受け取るのではなく、自分への問いを手放さずに持ち続けることが、揺れの多い市場で配分を保つ支えになるからです。
「人は常にその財を三分すべし」という教えは、性格の違う置き場所に分けておく知恵として、資産配分の古い形とも読めます。また、「答えるのを急ぐな。賢者は遅く答える」という言葉は、すぐに結論を出さず、問いをよく聞いてから答える態度を説いています。そして「誰が富める者か。自分の分に満足する者である」という言葉は、どれだけの揺れを引き受けてどれだけの成果を求めるのかという、配分の根本にある問いを思い出させてくれます。
参考情報
資産形成の基本的な考え方や、長期・積立・分散といった投資の原則については、金融庁が一般向けの情報を公開しています。投資信託を使って複数の資産に分けて投資する仕組みについては、投資信託協会の解説が参考になります。いずれも本記事で扱った内容を、より公式な立場から確認するための入口として挙げています。