市場を読むための学び・投資の考え方

自分のリスク許容度を言葉にする方法

リスク許容度とは、どれくらいの値動きや損失までなら受け入れられるかという許容範囲です。これには「お金の事情」と「心の事情」という二つの顔があり、両者は一致しないことがあります。この記事では、五つの項目で自分を点検する自己診断ワークシート、下落率と回復に必要な上昇率の関係表、そして二つの事情を2軸で並べたマトリクス図を使って、曖昧な感覚を言葉と数字に変えていきます。

リスク許容度には二つの顔がある

「リスク許容度」とは、どれくらいの値動きや損失までなら受け入れられるか、という許容範囲のことです。これには二つの側面があります。一つは、お金の事情としての許容度(資産・収入・支出・投資期間から見て、どれだけのリスクを取れるか)。もう一つは、心の事情としての許容度(どれだけの下落まで、夜眠れる状態でいられるか)です。

この二つは一致しないことがあります。お金の上では大きなリスクを取れる人でも、含み損に強い不安を感じるなら、心の許容度に合わせるべきです。逆に、気持ちは強気でも、近く使う予定のお金なら、お金の事情が許しません。低いほうに合わせるのが、長く続けるコツです。どちらか高いほうに合わせると、必ずどこかで無理が出ます。

五つの項目で自己診断する

自分のリスク許容度を測るには、いくつかの項目に分けて点検するのが有効です。次の表は、投資期間・生活防衛資金・収入の安定性・下落時に取りそうな行動・投資の経験という五つの項目について、低め・中くらい・高めの目安を並べたワークシートです。点数化する必要はありません。各行で自分がどこに近いかを確認するだけで、輪郭が見えてきます。

項目低め(慎重に)の目安中くらいの目安高め(取れる)の目安
投資期間(いつ使うお金か)3年以内に使う予定がある5〜10年は使う予定がない10年以上使う予定がない
生活防衛資金生活費の3か月分に届かない生活費の半年分ほどある生活費の1年分以上ある
収入の安定性変動が大きく、先行きが読みにくいおおむね安定している安定していて、増える見通しもある
下落時に取りそうな行動評価額が気になって眠れず、売りたくなる不安だが、決めた頻度の確認は保てる想定内として淡々と積立を続けられる
投資の経験はじめて、または下落を経験していない数年の経験があり下落も経験した複数の下落局面を保有し続けて越えた
目安であり、点数化する必要はありません。最も慎重な評価に近い項目が、実際の許容度を決めやすいとされます。

五つの項目のうち一つでも「低め」に振れているなら、全体としては慎重な設計に寄せるのが安全です。とくに「投資期間」と「生活防衛資金」は、他の項目でどれだけ高めに出ても覆せない制約です。3年以内に使うお金や、生活防衛資金が足りていない状態での投資は、心の準備がどれだけできていても、事情が許さない場面が出てきます。

二軸のマトリクスで考える

お金の事情と心の事情を、横軸と縦軸に取って並べると、自分がどのマスにいるのかが見えてきます。次の図は、その2軸マトリクスです。ポイントは、四つのマスのうち三つで「低いほうに合わせる」という結論になることです。

お金の事情と心の事情の2軸マトリクス横軸にお金の事情で取れるリスク、縦軸に心の事情で耐えられる度合いを取り、四つの象限ごとに低いほうに合わせるという考え方を示した図。↑ 心の事情(耐えられる度合い)が高いお金は低め・心は高め→ お金に合わせて低めどちらも高め→ 相応にリスクを取れるどちらも低め→ 慎重な設計にお金は高め・心は低め→ 心に合わせて低めお金の事情(取れるリスク)が大きい →二つが食い違うときは、低いほうに合わせるのが長続きのコツ
お金の事情と心の事情を2軸で並べたマトリクス。四つのマスのうち三つでは、低いほうに合わせるという結論になります。

右下のマス、つまり「お金の上ではリスクを取れるが、心が耐えられない」という組み合わせは、意外に多いパターンです。資産にも収入にも余裕があるのに、評価額の下落が気になって眠れない。この状態で無理にリスクを取ると、下落局面で最も避けたい行動、つまり底値圏での投げ売りにつながりやすくなります。心の事情は、意志で乗り越えるべき弱点ではなく、設計に織り込むべき条件です。

金額と期間で具体化する

リスク許容度は、「高め・低め」といった曖昧な言葉のままでは役に立ちません。具体的な金額と期間に落とし込むことが大切です。たとえば「投資資金が一時的に3割減っても、今後10年使う予定がないので待てる」というように、数字と時間軸でセットにして言葉にします。300万円の投資なら「90万円減って210万円になっても待てる」と、実額に置き換えるとさらに現実的になります。

とくに投資期間は重要です。同じ資産でも、来年使うお金と、20年後まで使わないお金では、取れるリスクがまったく違います。下落は、時間という味方がいれば回復を待てますが、すぐ使うお金では待てません。「いつ使うお金か」を仕分けることが、リスク管理の出発点になります。この仕分けは、商品を選ぶより前にやるべき作業です。

下落は「戻すのに必要な上昇」が大きい

リスク許容度を数字で考えるうえで、ぜひ知っておきたい性質があります。下落と上昇は対称ではない、ということです。100万円が20%下がると80万円になりますが、80万円が100万円に戻るには25%の上昇が必要です。下がった分と同じ率では戻りません。次の表は、この関係を計算したものです。

下落率100万円が減って残る額元に戻すのに必要な上昇率年5%で戻すのにかかる年数の目安
-10%90万円+11.1%約2.2年
-20%80万円+25.0%約4.6年
-30%70万円+42.9%約7.3年
-40%60万円+66.7%約10.5年
-50%50万円+100.0%約14.2年
必要上昇率は 1÷(1−下落率)−1 で計算した値。年数は年5%の複利で元の金額に戻るまでの概算で、税金や手数料は考慮していません。

表を見ると、下落が深くなるほど必要な上昇率が急に大きくなることが分かります。-10%なら+11.1%で戻りますが、-50%では+100%、つまり倍にならなければ元に戻りません。年5%で運用できたとしても、-50%の回復には14年程度かかる計算になります。この非対称性が、大きな下落を避けることに価値がある理由です。

だからこそ、リスク許容度を決めるときは「どこまで増やしたいか」より「どこまでの下落なら待てるか」から考えるのが実務的です。許容できる下落率が決まれば、そこから逆算して資産の組み方が絞られていきます。上限を夢で決めるのではなく、下限を現実で決める。順番を逆にしないことが大切です。

穏やかなときに決めておく

リスク許容度は、相場が荒れてから測ろうとすると、恐怖や興奮で正しく測れません。急落の最中に「自分はここまで耐えられない」と気づいて投げ売りするのは、最も避けたいパターンです。だからこそ、相場が穏やかなときに、あらかじめ自分の基準を書き出しておく価値があります。上の表の数字を眺めながら、自分が待てる下落率に印をつけるだけでも十分な出発点になります。

書いたものを相場が荒れた日に読み返すと、「これは想定の範囲内だ」と確認できることがあります。これは、嵐の前に避難経路を決めておくのと同じです。決めるのは平時、使うのは有事。順番を逆にしないことが肝心です。そして、書いた基準を見直すのも平時に、あらかじめ決めた頻度で行う。急落の最中に基準そのものを書き換えるのは、避難経路を火事のなかで変更するようなものです。

タルムードの視点 ― 足るを知る=身の丈を知る

リスク許容度を考えることは、結局のところ「自分の身の丈を知る」ことに近いものです。タルムードには「誰が富める者か。自分の分に満足する者である」という趣旨の言葉が伝えられています。他人がどれだけリスクを取っているかではなく、自分にとっての適量を知ること。それが、無理のない投資の土台になります。足るを知るという言葉は、我慢を勧める教訓ではなく、自分の適量を把握する技術のことだと読むこともできます。

周囲が大きく儲けているように見えると、自分の基準を超えてリスクを取りたくなるものです。しかし、他人の正解はあなたの正解ではありません。投資期間も、収入の安定性も、値動きへの耐性も人それぞれ違うのですから、同じ配分が誰にとっても適切であるはずがありません。自分の分を知り、その範囲で淡々と続けることが、結果として最も遠くまで行ける道になりやすいのです。

よくある質問

リスク許容度は年齢で決まりますか?

年齢は一つの目安になりますが、それだけで決まるわけではありません。同じ年齢でも、収入の安定性、家族構成、住宅ローンの有無、そのお金をいつ使う予定かによって取れるリスクは大きく変わります。若くても数年後に使う予定のお金なら慎重な設計が必要ですし、年齢が高くても長く使う予定のない資金なら事情は違います。年齢よりも「そのお金をいつ使うか」を先に決めるほうが、実態に近い判断ができます。

一度決めたら変えないほうがよいのですか?

変えてよいものです。ただし、変えるタイミングには注意が必要です。転職、結婚、出産、住宅購入、退職といった生活の節目や、投資期間が実際に短くなったときは、見直すべき自然なきっかけです。一方、相場が急落した最中や急騰の最中に基準そのものを変えるのは、恐怖や興奮に引きずられた変更になりがちです。見直すのは平時に、あらかじめ決めた頻度で、というルールにしておくと安全です。

家族とリスク許容度が違う場合はどうすればよいですか?

共有の資産については、慎重なほうに寄せるのが現実的だとされます。値動きに強い不安を感じる人がいる状態で大きなリスクを取ると、下落時に家庭内の不安が高まり、最も避けたい局面での売却につながりやすくなります。話し合うときは「何%まで下がっても待てるか」を具体的な金額に置き換えると、感覚の違いが見えやすくなります。個別の資金は各自の基準で、共有の資金は低いほうに合わせる、という分け方も一つの方法です。

参考情報

リスク許容度の考え方や、資産形成における長期・積立・分散の基本的な整理については、金融庁が一般向けの情報を公開しています。投資信託の値動きの性質や、商品ごとのリスクの見方については、投資信託協会の解説も参考になります。いずれも特定の配分や商品を勧めるものではなく、自分の基準を言葉にするための材料として活用できます。この記事の数値は税金や手数料を考慮しない概算です。

  • 金融庁 — 資産形成やリスクの考え方に関する一般向け情報
  • 投資信託協会 — 投資信託のリスクと値動きの解説